逢坂剛(おうさか・ごう)初期傑作ミステリー紹介
なにをかくそう、私のミステリー読書事始めは、1994年前後。会社の同僚から薦められた逢坂剛なるミステリー作家の『百舌の叫ぶ夜』(集英社文庫)だった。一気読みさせられ驚愕した。日本にこんなトリッキーな作家が存在していたことにである。
それまでは、ときどき騒がれたミステリーを手に取ってみるだけで、こんなものなのかなと思うだけだった。たとえば高村薫『マークスの山』だったりして「日本のエンターテイメントはこのくらいなんだな」と呟き、それでお終い。なんとなく遠ざかる。
そんなときだった、逢坂剛の作品に遭遇したのは。読み始め、ただならぬ予感が脳天を貫き、物語に吸い込まれる。恐るべきストーリー展開の速度。極端に表せば、文章の一行一行がストーリーの緻密な展開になっていて、ムダのない文章というより文章自体が消えている。そんな印象を与えるほどストーリーは興味津々で、ハード、冷徹、情念に充ちている。文句なく一級のハードボイルドミステリー小説だ。
そして私は思い当たったのだ。子供のころ夢中になった数々の冒険小説を。これは大人を夢中にさせる冒険小説なのだ。大人の鑑賞に堪えるミステリー冒険小説。ハードボイルド小説。予想を超えたどんでん返しがまたどんでん返る。さまざまなギミックが仕掛けられている。
なんといっても背筋がぞくぞくする快感にひたれることだろう。人間がみせる不可解な心こそミステリーなのだ、と読む者に思わせる作者の力量は、やはり並はずれたものだ。ほかの日本のミステリーを圧倒し、世界で充分に通用する作品である、というのが私の評価です。続編『紅の翼』『砕かれた鍵』(集英社文庫)。完成度の高さは見ものです。
「あらすじ」
場所は新宿。殺し屋百舌(もず)は新左翼系のジャーナリスト筧俊三を暗殺しようとじりじりと焦っていた。スキがないからだ。しかし、その百舌を追跡する者がいたノノ。そして思わぬ爆弾の破裂。物語がはじまる。殺し屋百舌を追跡する公安警察の秘められた意図。公安警察と刑事警察のあつれき。異彩を放つ登場人物たちのさまざまなキャラクターは強烈。